【ジュニア世代】打ち込む競技はいち早く一つに絞るべき?早期特化とマルチスポーツを考える
先月、サッカーの本田圭佑選手がTwitterでこんな発信をされていました。
子供たちに幼少期から1つのスポーツだけをやらせるというのは、逆に成功する可能性を低くしてます。
— Keisuke Honda (@kskgroup2017) January 9, 2022
早期特化 vs マルチスポーツ
子どもたちのスポーツの種目はいち早く一つに絞って、どんどん専門化していくべきでしょうか?それとも、さまざまなスポーツに触れて(=マルチスポーツ)、多様な運動体験を積みながら少しずつ専門化していくべきでしょうか?
ユース世代のアスリート指導に関わっていたり、実際にお子さんがスポーツに触れているという方は、このテーマを考えることのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実際のところ、メインスポーツ種目の競技特性・目指すもの・価値観・とりまく環境などによって条件は多種多様ですし、この問いに絶対的な正解はないかもしれません。
しかしながら、本田選手は「子どもたちが1つのスポーツだけをやること」に対して疑問を投げかける発信をされています。皆さんはどのように考えますか?このスポーツの早期特化・早期専門化は研究者のあいだでも議論されているトピックのようです。今回の記事はこのテーマについて考えていきたいと思います。
マルチスポーツが進んでいる国もある?
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アメリカ4大スポーツの一つであるNFL(アメリカンフットボール)シアトル・シーホークスのQBラッセル・ウィルソン選手。2019年のフォーブススポーツ選手長者番付では、アメフト選手で1位、全体で6位になったトップアスリートです。
彼はNFLのトップ選手でありながら、2018年にMLB(メジャーリーグ)の名門ニューヨーク・ヤンキースに期間限定で入団したというユニークな経歴の持ち主です。
アメフト選手と思えない打席での風格やスイング。記事によれば、ウィルソン選手は学生時代にアメフト・野球・バスケの「三刀流」だったとのこと。なかなかお目にかかれなさそうな経歴です。
日本では別競技のチームに所属するというのはなかなか難しいかもしれませんが、海外のアスリートではこのような複数競技のバックグラウンドを持つ選手も珍しくないようです。”バスケットボールの神様”マイケル・ジョーダンは、アスリートとしての全盛期に一時NBA(バスケ)から離れ、MLB(野球)へチャレンジした過去があります。
エビデンスはあるの?
こういったアスリートの例をみるとマルチスポーツという選択肢が興味深く見えてきますが、科学的な裏付けはあるのでしょうか?今回のトピックに関連した科学的根拠に触れていきたいと思います。
NSCA(全米ストレングス&コンディショニング協会)では、青少年の長期的な身体能力の育成(LTAD:Long-Term Athletic Development)に関する声明を出しています。こちらではユース世代のアスリートがどのようなトレーニングをすべきなのか、また指導者の関わり方などについて、科学的根拠にもとづく体系的な提言がなされています。そしてこの中に、「競技の早期特化」vs「マルチスポーツ」の議論の参考になりうる内容も含まれています。
早期特化に関連するリスク
NSCAの声明では、青少年の早期特化の導入に対して首をタテには振っておらず、懸念を示しています。その理由として、以下のようなことが挙げられています。
・傷害リスクの増加
・個人の運動スキルポートフォリオの鈍化(blunting)の可能性
・後年のパフォーマンス水準の低下
・オーバートレーニングのリスクや、スポーツまたは運動を止めてしまうリスクの増加
・一流レベルのパフォーマンスに到達する保証がないこと
etc...
これらが早期特化と関連していることがわかっています。ケガのリスクとの関連、また後々のパフォーマンスを落とす可能性があったりと、このような観点ではなかなか早期特化を後押しするメリットは少ないのかもしれません。
特にこの声明の中では、早期特化が青少年の傷害発生のリスクになりうるということは強調して述べられています。単一競技に特化したアスリートは、複数スポーツを行うアスリートよりも相対的な傷害リスクが4倍も高かったことが報告されています(Hall et al., 2015)。
様々なスポーツに触れるメリットは?
早期特化に対して、様々なスポーツに触れるメリットにはどのようなものがあるのでしょうか?NSCAの声明をもとに、3つのポイントを取り上げてみました。
メリット①:持続可能なスポーツキャリアの構築に役立つ
様々なスポーツや運動への参加や、特定スポーツの中での多くのポジションの経験を奨励すること(=サンプリング)は、より長いスポーツキャリアを構築するのに役立ったり、運動へ継続的に参加する機会を増やすことがわかっています(Cote J et al., 2009)。
メリット②:パフォーマンスの向上
また、長期的にパフォーマンスを高めるという点でもエビデンスがあります。Bridgeらの報告(2013)によると、11〜15歳の間に3種目以上のスポーツを経験した青少年は、16〜18歳の間にクラブレベル以上の全国レベルでプレーする可能性がより高かったとされています。他にも基本的な運動スキルに幅広く触れることで、より複雑で反応的な全身運動の発達が可能になるであろう(Lubans et al., 2010)といわれています。
メリット③:ケガのリスクを抑える
様々な運動やスポーツに触れることは、身体のある特定の部位に過度なストレスがかかる可能性が抑えられ、オーバーユース傷害を未然に防ぐことにつながります。また運動の多様性という考え方を採用することで、力のかかる点が絶えず変化しコーディネーションの変化が容易になり、傷害リスクが低下することが報告されています(Bartlett et al., 2007)。
このことから、多様なスポーツや運動体験に触れることにはさまざまなメリットがあるといえそうです!
いかがでしたでしょうか。整理してみると、積極的にいろんなスポーツや運動体験に触れていく方針には様々なメリットがあると言えます。また、早期特化には傷害リスクをはじめとした様々な懸念事項があることを押さえておく必要がありそうです。
とはいえ、実際のところ複数のチームに継続して所属したり、同時並行でいくつものスポーツを高い熱量で行うというのはなかなか難しい実情がありますよね。まずは現実的に、下記のようなアイディアを試してみるのもありかもしれません!
①打ち込むメインのスポーツを決める前に、いろんなスポーツに触れてみる
②メインとなるスポーツに打ち込みつつ、それだけに偏りすぎずに、日常的にいろんなスポーツに触れてみる(学校の体育の授業はチャンス)
③特定のスポーツの練習の中に、可能な範囲で別のスポーツの要素も盛り込んでみる
④特定のスポーツにおいて、可能な範囲で様々なポジションや種目を体験してみる
おわりに
今回は早期特化とマルチスポーツについて取り上げました。
現在は冬季北京オリンピックが連日盛り上がっています。スキージャンプ男子個人でノーマルヒル金メダル、そしてラージヒル銀メダルと快挙を成し遂げた小林陵侑選手(岩手県八幡平市出身)の活躍が大きな話題になりましたが、「ジャンプブームになって欲しい。みんなもやってもらえれば、ジャンプの楽しさがわかると思う」との陵侑選手のコメントもありました。
ジュニア期は可能性を狭めすぎずに、気になったスポーツにどんどんトライしてみるのもいいかもしれませんね!